大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和33年(ワ)6317号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕賃料増額請求の前提として、被告主張のような四当事者間の協議を要するとの約定が存したことは原告において明らかに争わないからこれを自白したとみなすべきである。

しかし、右約定は賃料の増額について賃借人らと賃貸人との意思の完全な一致がなければならないとする趣旨と解すべきでなく、賃貸人において賃料増額につき賃借人らの意見を求め、または賃借人らに意見を開陳する機会を与えなければならない趣旨と解すべきであるところ、<証拠>によれば、原告は被告に対して昭和三〇年九月に書面で賃料の増額について承諾を求めたほか、再三、再四にわたつて同様の申し入れをした事実が認められ、また、<証拠>そのころ細川力は原告の代表社員であつたことがうかがわれ、さらに、証人細川由松の証言によれば、同人は原告の無限責任社員であることが認められるから、原告の被告に対する増額の申し入れは、当然原告、細川力、細川由松(合資会社雅叙園の代表者である。)三者間の協議がなされた上でのことであると推測し得る。

従つて、原告は賃料増額に関し右四当事者間において協議の機会を提供したのであるからこの点に関する被告の主張は理由がない。

ところで、賃借人が賃貸借の目的物に関して費用を支出し、その客観的価格を増加させた場合、必要費の支出によつて価格が増加した場合は(仮に、賃貸当初の建物価格をさらに増加させるような費用の支出が必要費といい得るとして)、特別の事情のない限り、賃借人は直ちにその必要費の償還を賃貸人に請求することができ、従つて、結局賃貸人の負担においてその価格の増加による利益を受けるのであるから、その価格の増加は適正賃料の算定について当然考慮さるべきであるが、有益費の支出によつて価格が増加した場合は、賃借人は賃貸借終了のときその価格の増加が現存する場合に限つて賃貸人の選択に従つてその費用または増加額の償還を請求できるに過ぎず、従つて、結局自分の負担においてその価格の増加による利益を受けるのであるから、その価格の増加は、適正賃料の算定について考慮すべきではない。従つて、被告が本件建物または原告所有の附属物件について改造費その他の有益費を支出し、その増価価格が昭和三二年八月当時残存している場合は、本件適正賃料の算定にあたつて建物の価格からこれを控除すべきであるが(前記のとおり、鑑定の結果の基礎となつた建物価格は有益費等の支出による増加価格を控除してない可能性もあり、本件建物の固定資産税の課税標準価格は、被告所有の諸設備のみを除外して算出しているのであるから、おそらく有益費等の支出による増加価格を含んでいる。)、被告が本件建物または原告所有の附属物件についてどういう有益費を支出し、その増加価格が当時どの位残存していたかについてはこれを認めるに足りる証拠はない。(田嶋重徳 定塚孝司 矢崎秀三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!